ぶらぶらBG3 04
トランスポンダーまでまもなく、レイゼルとシャドーハートが時折口喧嘩するのを尻目に、ついにブリッジまでたどり着きます。そこではイリシッドと九層地獄の勢力が激しく戦っています。インプの他に、カンビオンの姿もあります。


カンビオン/フィーンド

カンビオンというのも、頻出する単語でかなり定義がややこしい言葉ですので触れておきます。
簡単に結論だけを申しますと、カンビオンとは悪魔と呼べる種族とヒューマノイドとの間に生まれた子供。ということになるのですが、もう少し詳しい情報を共有したいと思います。
そのためにまずフィーンドという言葉についてお話します。
フィーンドとは別の次元からやってきた存在の中でも特に”Fiendish planes”という分類の次元から来た存在を指す言葉だそうです。デヴィルの住処である九層地獄バートルや、デーモンの住処であるアビスという次元もこの”Fiendish planes”に含まれ、他にもいくつかの次元がこれに分類されます。総称なので”planes”と複数形ですね。フィーンドについては大丈夫でしょうか。それではカンビオンについて共有します。
カンビオンというのは、ヒューマノイドとフィーンドの間に生まれた子供の総称です。
つまりデーモンとヒューマンの間に生まれてもカンビオン、デヴィルとエルフの間に生まれてもカンビオンです。カンビオンというのはこれらの総称として使われる言葉のようです。
なのでただカンビオンというだけでは、デヴィル由来なのかデーモン由来なのか、はたまたその他のフィーンドとの間に生まれた子供なのかを、言葉の定義だけでみると判別しないようです。
ただ実体としては主にデヴィルとの間に生まれた者を指すことがほとんどだそうです。
一旦ここまで大丈夫でしょうか。もう少しつづけます。
実はこのカンビオンという言葉、元々はデヴィルではなくデーモンとの間に生まれた子供を指す言葉だったそうです。ただD&Dの版を重ねるうちにその定義が変化していき、現在ではあらゆるフィーンドと人型種族(ヒューマノイド)との間に生まれた子供全般を指すということで再定義されたという経緯がそうです。これと並立して、特定のフィーンドと人型種族の間に生まれた子供を、それぞれ親となったフィーンドごとに呼び分ける言葉も存在するんですね。
たとえばサキュバスとヒューマノイドの男性との間に生まれた場合、アル・フィーンドと特に呼ばれていたり、他にも組み合わせを特に指して呼ぶ言葉が存在するようです。
このような用法の中でのカンビオンは、主にデヴィルと人間との間に生まれた子供を指すようです。実際BG3に登場するカンビオンはほぼ全てデヴィルと人間との間の子供です。なので結局のところ、デヴィルとヒューマノイドのハーフという認識で概ね間違いないということになります。
かなり紆余曲折した情報でややこしかったと思いますが、大丈夫でしょうか。
ちなみに、もっとわかりやすくフィーンドとヒューマノイドのハーフというそのままの言葉、ハーフフィーンドという言葉も別途存在するようです。この言葉にはカンビオンも先程例示しましたアル・フィーンドも全て含まれます。ですが、BG3作中ではあまり頻繁には聞きません。
最後におさらいしておきます。カンビオンとは本来、あらゆるフィーンドと、ヒューマノイドとの間に生まれた子供全般を指す言葉ですが、ほとんどの場合はデヴィルとヒューマノイドの間に生まれた者を指すのに使われるということですね。
ブリッジでの戦闘中、ザルクというカンビオンの指揮官が登場します。指揮官ですから、この襲撃に参加している者たちは彼が率いていたということですね。ザルクは三つのセリフを発します。一つは以前紹介したもの「船を奪え、ザリエルに首をもがれるぞ!」ですね。
“Take this ship, or Zariel will have your head!”
もう一つは「侵入者どもの腹を開いてやれ、アヴェルヌスは我々のものだ」となっていますが、別に変な訳ではないですが英語原文では特に腹とは言っておらず、単に「引き裂いてやれ」と言っています。これは本当に些細なことです。
ただアヴェルヌスは我々のものという掛け声は気になりますね。もしかするとデヴィルたちは、ここのノーチロイドの目的が地獄への侵略にあると考えたのかもしれません。
この部分ですが、あとでもう少し補足します。
“Split these intruders open, for Avernus is ours!”
最後は「奴らの死体をステュクスに投げ込んでやれ」ですね。翻訳はごく普通です。
“Throw their corpses in the Styx!”
ステュクスというのは、ステュクス川という川の名前です。これは物質界の外にある川で、いくつもの次元を跨いで流れる大河です。複数の次元を繋いでいるのですが、特に特徴的なのはアヴェルヌスと、デーモンたちの故郷であるアビスがこのステュクスでつながっており、デーモンたちの侵入経路となったことですね。流血戦争が勃発したあと、彼らのすさまじい戦いによって大量の血が川に流れ込み、増水が起こったとも言われています。
ステュクスは忘却の川とも言われていて、ここの水を飲むと全ての記憶を失ってしまうそうです。
ちなみに、この川の名前は私達の住むこの次元においても、ギリシャ神話で登場します。死者の領域と生者の領域を隔てる川ですね。
レルムにおいても、ステュクスと死者というのは縁が深く「すべての川はステュクスに繋がる」という言い回しが作中でも登場します。あらゆる生命が死を迎えることの暗喩ではないでしょうか。ただ、私達の次元におけるステュクスとはやはり認識が異なっていて、神話的、神秘的な存在というよりは、本当に外の次元を繋いで流れる恐ろしい川という印象です。
さて少し話を戻します。「アヴェルヌスは我々のものだ」についてですね。
実は流血戦争を語る歴史の中に、次のような興味深い記述があります。それはイリシッドたちの帝国がこの世界を支配しようとしていたとき、起源もわからないほど延々と続いていたこの流血戦争が一時的に停戦したというものです。
デーモンもデヴィルもイリシッドの台頭には強い危機感を抱いたという経緯があるようです。ノーチロイドが現れたことに対して、デヴィルたちがこうも即座に臨戦態勢を取るというのには、こうした過去が関係しているのかもしれません。
ただイリシッドの帝国が力を増していた過去、デヴィルやデーモンたちが具体的にどのように立ち回っていたのかについては記述を発見できなかったので、推測できるのはここまでです。
ただそうなってくると、イリシッドはなぜアヴェルヌスに逃げ込んだのでしょうか。単に知らなかったでは説明しきれないと考えています。ここからは妄想となります。
個人的にはイリシッドにとって味方がいる次元は無いに等しく、同時にギスヤンキの他の拠点を悟らせないよう、単独で解決しなければならなかったからかと考えています。レッド・ドラゴンの部隊を撹乱するため、より大きな混乱を発生させられる次元を選んだのではないでしょうか。戦闘に巻き込まれるかたちで参加する主人公たちですが、激しい戦闘を生き残った一人のイリシッドが次のように言います。
「隷属者よ、トランスポンダーの神経を接続しろ。脱出せねばならない。急げ」
“To all, connect the nerves of the Transponder. We must escape. Now.”
英語原文では”To all”「全員に告ぐ」と言っており、厳密には隷属者という言葉は使っていませんが、状況的に意味は同じですね。命令を聞くものだと確信している言い回しです。

戦闘は終わり、アヴェルヌスを脱しましたが、ノーチロイドは墜落します。この光景を、別々の場所にいる複数の人物が目撃しています。様々な種族が登場し、短いシーンながら非常に情報量の多い画面です。種族についての説明はそれぞれが登場する場面でしっかり行いたいと思いますので少しお待ち下さい。また、このシーンそのものについてもお話したいことが多くあるのですが、読解のために必要な前提情報が多すぎるため、情報が出揃った時に改めてこのシーンを振り返ることにします。

どこかの水辺に落下した主人公ですが、謎の力によって地面に激突する寸前で止まり、一命を取り留めます。すでに長々とイントロでお話した後ですが、物語はここからが本番です。
夜は明け、朝になっています。
水に近づくと主人公は水が真水であることに気づきます。「近くに集落があるはず」という推測もされます。個人的にとても好きな場面で、まず真水であるのはここが海でなく川であるためですね。真水がある場所に人がいるという推測もこの世界の文化水準を端的に説明していてとても気持ちいいです。本作にはこういう手短で鋭いセリフが随所にあります。
チオンター川
ではここで今いる場所についてお話します。ここはチオンター川という川の近くですね。西ハートランズと呼ばれる地域を広く流れる川で、特に言及されるのはこの川が二つの都市を結んで流れていることです。一つはエルタレル。そしてもう一つがバルダーズ・ゲートです。それぞれの都市についての詳しい言及はここでは割愛します。
冒険は基本的にこの川の流れに沿ってバルダーズ・ゲートに向かうことを目的としています。本作で頻繁に聞くであろう[Down by the River]という歌も、おそらくチオンター川を下流に向かって旅する本作の全体像に則したものではないでしょうか。
せっかくですので、最後に[Down By the River]の歌詞を簡単に翻訳しておきます。詩的な解釈は人ぞれぞれですし、歌詞の翻訳は極めて高度なもので素人には困難ですので、あくまで簡易なものです。
Lace your heart with mine (心を繋ぎあわせて)
Let your sleeping soul take flight(眠れる魂を解き放ち)
Take me through the night(夜を超え、私を導いて)
Down, down, down by the river (下る、下る、川辺のほとりを)
Down, down, down by the river
Hanging moon in fog(霧に浮かぶ月)
Mists will lead where you belong(かすみは君をあるべき場所へ導くだろう)
Sweep me off my feet(私の心を奪って)(慣用表現:心を奪う、恋に落ちる、感激、圧倒)
Down, down, down by the river
Down, down, down by the river
Down, down, down by the river
Inky embers Swirl and dance(黒い燃えさしが渦を巻いて踊る)
Just leap the flames and take a chance(炎を飛び越え、チャンスを掴んで)
To be with me tonight(今夜私といるために)
Take my hand And hold it tight(手を取って、固く握って)
'Cause you and I are everywhere(だってあなたと私はどこにでもいるのだから)
The night is young, we're going(夜はこれから、私達は進んでいく)
Down, down, down by the river
Down, down, down by the river
Down, down, down by the river
Don’t wake me up.just leave me there dreaming(起こさないで、そのまま夢を見させて)
個人的には、夢の使者についての歌ではないかと考えています。
まだ動画ではお話していない存在ですが、主人公の夢を介して現れる本作の重要人物です。
「黒い燃えさし」や「炎を飛び越え」など、ロマンティックにも感じる歌詞の全体像の中に不穏な描写が度々見られる他、終始眠りや夜というモチーフが一貫しています。また、導くものとして描かれているのが、光などのわかりやすくポジティブなモチーフでなく、”Mists”つまり霧やかすみなのも意味深ですね。霧というと不安であったり、迷いなどを表すのに頻繁に用いられるモチーフですが、それが導くというのがかなり意味深に感じます。
“Down”というのも「下る」と訳し ましたが「潜る」という表現である可能性もあります。
最後には「起こさないで、そのまま夢を見させて」という終わり方ですが、これも夢の使者との時間と、そこへの依存を感じさせるようにも思えます。
また「どこにでもいる」という表現も、起きている時間に会うのなら、特定の場所を指定して逢引しないといけません。けれど、夢での邂逅を言っているのなら、どこにでもと言えなくないですよね。どこにいたって眠ってさえしまえば会えるのですから。
もしかすると、所謂王道のエンディングを描いていない歌詞かもしれません。
これは本当に書き込みを見かけた程度の情報源でしかないのですが、BG3は当初夢の使者ではなく、デイジーという夢の世界でのみ会える女性のキャラクターを設定していたそうです。
この人物を前提に描かれた歌詞なのではないかと考えることも多いみたいですね。
ただ歌詞の解釈に関しては私個人の感想の領域を脱しないので、ご自身で感じられたものが全てだと思います。こちらの解釈については是非とも聞き流していただければと思います。