ぶらぶらBG3 06
仲間たちの登場
シャドーハートと二人で墜落したノーチロイドの周囲を探索します。共に旅をする仲間たちとの出会いの場面ですね。

茂みを覗いているハーフエルフの男性。彼の名はアスタリオンです。
インテレクト・ディヴァウラーを茂みに追い詰めたという彼は、それを殺すよう主人公に頼みます。その申し出を断ると、背後から襲われナイフで脅されます。
“I saw you on the ship, strutting about whilst I was trapped in that pot.”
「船でお前を見たぞ。俺はあのポッドに閉じ込められていたが、お前は歩き回っていたな」
こちら”strutting”には闊歩するなどの意味があるので、俺は閉じ込められていたが、お前は悠々と歩き回っていたな。と、状況を対比させることで強くこちらを疑うニュアンスがあります。
説明しようとするが聞いてくれないというやりとりの最中、アスタリオンが突然の痛みに悲鳴を上げたところで、ナレーションが入ります。
“Your mind twists. You're looking out of unfamiliar eyes, prowling dark, busy streets. You try to hold the memory, but it fades to the worm, the light, the fear. “
「あなたの心がねじれる。見慣れない目を通して景色が見え、暗く賑やかな通りを徘徊している。記憶を保持しようとするが、記憶が虫へ失われていく。光へ、恐怖へ」
ここがおそらく本作の体験を通して最初に出てくる本格的な謎字幕ではないでしょうか。「記憶が虫へ失われていく」ですね。これだけ見ると、幼生によって記憶が奪われていくかのように思えますが、原文でのニュアンスは全く異なります。
まず”You try to hold the memory,”「記憶を繋ぎ止めようとする」あるいは「保とうとする」という部分があり、その後に”but it fades to”「しかし消えていく」となります。なにに消えていくのかという対象として、並立した列挙で”the worm,the light,the fear”とあり、幼生、光、恐怖といった三つの要素が並べられます。
一度再翻訳の結論を出しておきます。
「「あなたの心がねじれる。見慣れない目を通して景色が見え、暗く賑やかな通りを徘徊している。記憶を保持しようとするが、それは幼生、光、恐怖へと溶けていく(消えていく)」
日本語字幕では「記憶が虫へ失われていく。」と句点が打たれているため、余計に幼生に奪われているというようなニュアンスが強くなってしまっていますね。
整理しつつ全体を見ます。御存知の通りアスタリオンはヴァンパイアなんです。厳密にはヴァンパイア・スポーンと呼ばれる存在ですが、それについては今は割愛させてください。
そのため光は本来、彼にとって天敵なんですね。どの程度天敵かと申しますと、作中で別のヴァンパイア・スポーンを日光に晒すというシーンがあるのですが、たちまち肌が火傷に爛れ、さながら拷問という光景になります。それくらい彼らにとって触れられないものなんですね。
暗く賑やかな通りとは、バルダーズ・ゲートの裏通りのような場所と思われます。日の当たりにくい場所を歩いていたわけですね。そこで拉致され、幼生や光という様々な恐怖に襲われ、それが原因でこの近辺の記憶が不鮮明になっているという描写かと思われます。
アスタリオンは今、昼日中の野外にいますがそれはいいのかという点については、しばらく後に作中で説明されますので今は割愛します。
アスタリオンに、マインド・フレイヤーの虫が我々を繋いだのだと教えます。
“The worm, of course. That explains things, somewhat. And to think, I was ready to decorate the ground with your innards. Apologies.”
「ああ、あの虫だろうさ。それで説明がつかないこともない。もう少しでお前の内蔵をぶちまけてしまうところだった。すまない」
訳はごく自然です。面白い部分として、このぶちまけるのところですが”decorate”が使われています。「飾る」ですね。アスタリオンらしい言い回しで、意訳で遊べそうな部分です。「もう少しでここに真っ赤な絨毯を広げるところだった」などのようにしても面白いかもしれませんね。
自己紹介を交わし、なんとか緊張した空気が和らぎます。ここでは「私もバルダーズ・ゲート市民だ」を選択しています。
“Is that so? We clearly move in different circles. So, do you know anything about these worms?”
「そうなのか?我々の居場所は違っていたようだな。あの虫について何か知っているか」
特に引っかかるところはありません。生きていた社会や環境が異なる”different circles”というところですが、彼はヴァンパイア・スポーンですから、物理的な意味で日の当たる場所を歩けませんし、ヴァンパイアは独自のコミュニティを築いて生活していますので、一般人と直接接触する機会は限られています。その皮肉も込められた部分ですね。
「残念だけど、我々はあれによってマインド・フレイヤーにされる」と答えます。
“Turn us into… Ha! Ha ha ha ha ha! Of course it’ll turn me into a monster. What else did I expect? Although, it hasn’t happened yet.”
「マインド・フレイヤーに…ハッ…ハハハ!そうか、そうなるだろうな。わかりきっていたことを。だがまだ変異は始まっていない」
ほとんどそのままです。強いて何か言うとすれば、”What else did I expect?”この部分には「俺は何を期待していたんだろうな」という自嘲気味なニュアンスが含まれているそうです。
“ If we can find an expert, someone that can control these things, there might still be time.”
「もし専門家を…つまりあれを操れる人物を見つければ、まだ間に合うかもしれないということだ」
以降やや省略しますが、最終的にアスタリオンをパーティーに勧誘し、旅の仲間として同行することになります。
“You know, I was ready to go this alone, but maybe sticking with the herd isn't such a bad idea. And you seem like a useful person to know. Alright, I accept. Lead on.”
「一人で行く気だったが、群れで行くのも悪くないかもしれないな。それに、お前と知り合っておいて損はなさそうだ。いいだろう。ついていく」
ヴァンパイアとヴァンパイア・スポーン
ではヴァンパイアとヴァンパイア・スポーンについて共有します。まず単純にヴァンパイアは吸血鬼。スポーンとはその下僕と考えて差し支えないかと思います。
彼らはアンデッドに分類されます。ゾンビやスケルトンのようにいかにもという見た目ではありませんが、死体から蘇った存在ですのでここに分類されているようです。
基本的には生前の能力を全てもったままで、その上さらにヴァンパイアとしての力を持つようになるそうです。具体的には吸血や変身、そして視線だけで心の弱いものを支配する能力。ネズミ、コウモリ、オオカミなどの獣を操る能力などが挙げられるようです。変身と一口にいってもその姿は多様で、先述のネズミ、コウモリ、オオカミなどの他に、ガスとなって移動することもできるそうです。これは肉体が致命傷を負った場合にも利用され、どこかにある自分の棺へと逃れ、回復しようとするそうです。ちなみに青白い肌などの見た目については、化粧で隠すそうです。
彼らは能力だけでなく、生前の記憶を持っている場合も少なくないようです。ただしどれほど元が真人間であろうと、多くの人情は執着や嫉妬へと変貌してしまい、ヴァンパイアとなったあとに生前の人間性を期待するのは無謀ということだそうです。
そしてヴァンパイアの多くは、自らが吸血した対象を下僕、つまりヴァンパイア・スポーンに変えて手駒を増やそうとするそうです。アスタリオンはこの位置、ヴァンパイア・スポーンですね。
ヴァンパイアとの大きな違いは、犠牲者をヴァンパイアに変化させる能力がないということのようです。これを行うには、自分の主であるヴァンパイアの血を吸い、自らが完全なヴァンパイアになるしかないそうです。
ただし当然ですが、ほとんどのヴァンパイアはこのような事態を避けるそうです。支配権を失うことを恐れ、スポーンにそのような能力を与えることはしないのが普通のようです。
もっとねずみ算式に駒を増やしたほうが効率的ではないかとも思いますが、ヴァンパイアにとって自分の血をスポーンに与えるというのは、ただ能力を与えるだけでなく、主従関係に影響を与える可能性があるからだそうです。
多くのヴァンパイアは単独行動を好むようですが、その例外を発生させるのが、ヴァンパイア・ロードという存在だそうです。
これは特に強力なヴァンパイアであり、群れを統率する存在です。ロードの支配下では複数のヴァンパイアが集団生活を営むこともあるそうです。ただ、基本的には一匹狼気質というのが前提ではあるようですね。アスタリオンが先ほど、言っていたセリフにもこの辺りの性質が伺えます。
ちなみに、主人が何らかの形で死亡した場合も、その支配下にあったスポーンたちは自由を得るそうです。
少しだけ憶測の話をします。
ヴァンパイア・スポーンが主人の血を吸い、その支配権を揺るがすという点ですが、スポーンがなにか主人から一定以上の距離を離れられないとか、常に監視されているとかそういう物理的な、あるいは魔法的な束縛があるような記述は、調べる限り見当たりませんでした。
つまりこれは状態が解除されるというより、スポーンを作る能力を得ることで、別の勢力となる可能性をもつことであったり、同格の力を持つことで主従関係を維持できないというような、ヒエラルキーの変化を意味するように思えます。ただこれは私の憶測です。
瀕死のイリシッド
ノーチロイド船内に、瓦礫に挟まれて動けなくなったイリシッドを発見します。
“This is the thing that abducted you”
「これはあなたをさらった張本人」と日本語、原語双方で語られていますが、おそらくは本当にこのイリシッドが主人公を直接拉致したというよりは、イリシッドという種族全体を指したものと思われます。あるいは、このノーチロイドの乗組員という意味での張本人かと思われます。
このイベントの訳ではそれほど混乱する箇所はないかと思います。イリシッドと相対したときに敵意や憎悪が奇妙に捻じ曲げられ、同情や愛などのあり得ない感情がよぎることが描写されています。やがてイリシッドが欲しているものが自身の脳であると気づいた主人公は、それに抵抗するか、この精神の綱引きに敗北し死亡するかという展開に繋がります。
強いて言うなら「復讐の爪が襲いかかる」という部分は、”But then its grip claws back with a vengeance,”「執念深く爪を立てて戻り…」などの翻訳が考えられます。つまりこのやり取りの中で一度は失われかけたイリシッドの精神支配が執拗に襲ってくる様子を比喩を織り交ぜて表しているものでしょう。
ここからすこし妄想混じりのお話になりますが、ここの英文を読むのが僕にはかなり難しかったんですね。といっても、おおよそ日本語字幕の通りに読むだけなんですが、よくよく読むとちょっと面白そうに見える、奥行きがありそうに見える、という意味です。
”Your mind's fuse, lusting for something that is gone. “
この部分、作中字幕は「心が融合する。何か…失われたものを欲している」
となっていて次にに”But then its grip claws back with a vengeance, a vice locking your mind into obedience. ”と続きます。
イリシッドの精神に集中する選択をした場合のナレーションなのですが、まずイリシッドの心を探るため「融合」します。次に「失われたものを欲している」というのは、あとの状況も鑑みるにイリシッドが養分、つまり脳を欲していることだと思われます。
でもそのあとに”but”と逆説で文章が繋がるんですね。その先は「復讐の爪が襲いかかる」(執念深く爪を突き立てて…)ですね。イリシッドがこちらを再び支配しようとする描写です。
こちらがイリシッドの「飢え」を探知するくだりまでは主人公が能動的にアクセスしている描写で、そこから転換して精神がイリシッドに捕らわれそうになる描写という風に移り変わっているるのは日本語字幕でも明らかです。
イリシッドの描写に、こちらを支配しようという動きと、食欲という目的が露出している状態というのが二重に描かれていて、おそらくこのイリシッドが弱っているために本来気取られないよう秘匿すべき、あるいはそんなことがどうでも良くなるくらい強く支配すべき状況であるのに、それができなくなっているため、このイリシッドの精神支配と根底にある捕食への欲求が互い違いに垣間見えるという描写をおそらくしているんだと思います。
この一連の流れだけでも支配が強まったり弱まったりという描写が連続していて、おそらくイリシッドが本来の力を持っていれば、捕食への欲求を満たす。つまり主人公に頭を差し出させるという動作を、同情や愛情という感情で塗りつぶして何の疑問を抱くこともなく実行させることができたのではないでしょうか。しかし瀕死の状態であるこのイリシッドは、どちらかに集中するとどちらかのコントロールができなくなってしまって、主人公が抵抗する隙が生まれていた。という描写なのではないかと考えています。総じて、イリシッドの精神支配とはどのようなものかを詳細に見せる役割がこのシーンにあったのではと考えています。
最後のイリシッドとの対峙に関する部分なんですが、おそらくイリシッドの精神支配というものを本気で受けた場合、もっと主人公の意識は混乱して曖昧な描写になるのではないかと思うんですね。ここでそれを詳細に描写して分析的にしてしまうと、支配されて不条理なことや非合理的なことという判別がつかなくなっている精神状態という印象が損なわれてしまうのではないかと思いました。それで、不完全な精神支配というシーンを作ることで、イリシッドによる精神支配がどのようなものかというのを自然な形で詳細にみせることができる。
いわば壊れた機械を描写することで中の配線の複雑さを映すことができる。というような意味で、こういうシーンがあったのではないかなと勝手に思っています。これはもう個人の感想の世界ですが。こういう、とても味わい深いシーンだったんじゃないかと、勝手に考えています。
余談ですが、ヴァンパイアとスポーンについて調べているときに、スポーン対して対義語的に「フル・ヴァンパイア」という言い回しをする例がありました。
一般会員とプレミアム会員みたいな印象を受けますね。
お読みいただきありがとうございました。
アスタリオン セリフ全文
“Hurry! I've got one of those brain things cornered. There, in the grass. You can kill it, can't you? Like you killed the others?”
「急げ。あの脳みそやろうを一匹追い詰めた。そこの草むらだ。殺せるだろ?他のやつを殺したみたいに」→断る
“I was hoping for a kind soul. Well, not to worry.”
「親切を期待してたんだがな。まあ、心配は無用だ」
“I saw you on the ship, strutting about whilst I was trapped in that pot.”
「船でお前を見たぞ。俺はあのポッドに閉じ込められていたが、お前は歩き回っていたな」
“What did you and those tentacle freaks do to me?”
「あの触手の連中と一緒になって俺に何をした」
“I'm not an idiot. I saw... Ahhh!!”
「馬鹿にするな。俺は見たんだ」
“What was that? What's going on?”
「今のはなんだ。どうなってる」
“The worm, of course. That explains things, somewhat. And to think, I was ready to decorate the ground with your innards. Apologies.”
「ああ、あの虫だろうさ。それで説明がつかないこともない。もう少しでお前の内蔵をぶちまけてしまうところだった。すまない」→「お互いの事情はわかったようね」
“Indeed we are. Please, allow me to introduce myself. My name’s Astarion. I was in Baldur’s Gate when those beasts snatched me.”
「ああ。さあ、自己紹介をさせてくれ。俺の名はアスタリオン。バルダーズ・ゲートにいて、あの怪物どもにさらわれた」→「自己紹介する。同じくバルダーズ・ゲート出身だ」